美(BE)を見極め続ける魂のスタイリスト【3wBEe time capsule story】

あなたはどうやってここまで来たの?振り返ってみたあの頃が、今の私にメッセージを届ける3wBEeタイムカプセルストーリーのはじまりはじまり。

スタイリスト考

1980年〜90年代、“スタイリスト”は、ファッションモデルや芸能人、アーティスト(それも一部の先鋭的な人達)に特別に付く、プロデュースされた全体の中の一部を担う専門的で特殊な職業の人を指していました。

うんうん、そうだった、そうだった、一般庶民からは程遠い、ほら、東京にいる人の仕事という感じだった・・・なんて話にうなずくのはもはや私らアラフィフ世代(とくに地方出身のね)くらいではないでしょうか。

近頃は日本人全体のオシャレ度があがっている時代です。お手頃価格でデザイン性のある服を楽しめるファストファッションブランドが台頭し、テレビでは毎日のように街を歩く人のファッションチェック、SNSには○○コーデ!なんて自撮りショットが流れています。一億総タレント時代の到来です。

そして、一部の世界に独占されていた職業人“スタイリスト”さんはごく普通のOLさんやごく普通の奥様の手がとどく人たちとなったのです。

皆がセンスを磨きたい、お買い物に同行してほしいーとなるわけなのでね。女性だけでも35億、いや、ジャポネーゼ5千万人いるわけでしょ。売り手市場を見据えたスタイリスト養成スクールなどもどんどん出てきて、世の中に「パーソナルスタイリスト」という身近なスタイリストのスタイル(これもシャレ!)が現れました。

神様って、そのあたりの人類の進化の全てを上からお見通しなのだと思います。そろそろ、パーソナルスタイリストが必要になるタイミングのようだな、どれどれ・・・?!と下界を覗いては、それにふさわしい人に白羽の矢をたてたりするんです。ま、これ“BEの矢”って言います。運命です。ご本人はまだ気づいていないかもしれませんがね。構わず、BEの矢は来るべき時にシュッと刺さります。それはある日、突然に。

”不思議ちゃん”な研究者だった

ここにBEの矢に見事に射抜かれた人がいます。髙尾香織さん、東京で活躍するパーソナルスタイリストです。少し彼女の背景を覗いてみましょう。

パーソナルスタイリストになる前、香織さんは大学で言語学の研究者として働いていました。英語が好きで語学の研究や講師の仕事は一生の仕事としてやっていくのだろうと疑いもなく思っていたそうです。想像するに、研究者とは研究対象についてどこまでもロジカルに原理を紐解いていく、真理を見出していくお仕事なのだと思います。ねえ、香織さん、そうなんですよねー?!

「はい、そうですね。だから研究者はやはりロジカルな人が多いです。もちろん私もそのような資質はもちながら、しかし、どこか感覚派の部分があったようで、仲間うちでは少し不思議な人物と思われていたようです。」

なるほどね。上からみると光りますよね〜。

さて、みなさん。人にはそれぞれ活かされるべき個性があると思います。でも自分ではなかなか個性に気づきません。なぜなら、個性が見え隠れするのは普段の生活のなか。無意識の行動に現れるからです。ここでは、香織さんが自分の個性に巡り合った瞬間を見てみましょう。おっと、ちなみに神様のBEの矢は個性に向けて放たれます。

運命のBEの矢は想像もしないルートでやってくる

研究室で少しばかり不思議ちゃん臭を放っていた香織さんは大学のお仕事を退職後、主婦の暮らしを楽しみながら、改めて夫婦関係について考えていました。そして心理カウンセリングスクールに通い始めます。(さすがは研究者肌です)

ある時、スクールで年に一度の研修ワークショップが開催されました。研修はペアを組んでワークに取り組むプログラム。バディ(相手)はランダムに選ばれる偶然の組み合わせです。香織さんのお相手も全くの初対面、関西出身の女性でした。

研修の最終日の前夜、香織さんはバディのカンサイガールと食事をとっていました。話はお互いに何が好きなのかという話題になり、香織さんの口からふと「私は買い物についていくのが好きかな〜」という言葉が漏れたのです。

この頃の香織さんは、例えば趣味を訊かれたなら「ピラティスとフラワーアレンジメントです」とにっこり答えるのをヨシとしていたような風。なぜこの時、そうではない言葉がでたのかは未だにわからないと言います。ほらほら〜!なんか動いてきたでしょ?!続きを見てみましょう。(※以下は私のイメージ再現フィルムです)

賑やかなフードコートの一角は家族連れや若いカップルなどで賑わっていました。香織さんが何気なく口にしたそのひと言に、カンサイガールの箸をもつ手が止まりました。

「え、買い物?」

カンサイガールは目を丸くして香織さんの顔を見ています。

「うん、あえていうと、人の買い物についていくのが好きかな、その人に似合うものを探すのが好きなの」

香織さんは続けてそう言いました。

その時です。カンサイガールはナフキンを握りしめながら、半ば興奮気味にこう叫んだのです。

「ええ!ほんまに?!私そういう人求めててん!これから私の買い物に付き合ってくれへん?!もう、ご飯はええわ」

たまたま食事をしていた場所はイオンモール。たくさんのショップが集まっています。ところが閉店まで1時間しかありません。香織さんとカンサイガールは次々と店を周り、買い物に走りました。お洋服からアクセサリーまでです。

実はカンサイガールはアラフォーの今に至るまで一度もファッションや買い物を楽しんだことがありませんでした。自分に自信もなく、オシャレすることには憧れるものの、自分ではどうやっていいのかわからないし、かといって店員さんがいるお店は怖くて入れない。とりあえず緊張せずに入れるお店はユニクロだけでした。

翌日、カンサイガールは香織さんが選んだ服に身を包んで颯爽と研修のクラスに向かいました。見違えるほどおしゃれに変身した姿に研修仲間は皆驚きの表情を浮かべています。

おしゃれ以外では押しが強いカンサイガールです。

「香織ちゃん、絶対“コレ”やったほうがええで!!」

人生のシフトが始まる

カンサイガールが矢を持った天使だったのかどうかはわかりませんが、とにかくこれを機に香織さんの人生が今までとは違う方向へシフトし始めたことは確かです。本格的に肚をくくって勉強を始めるまでにさらに2年の月日を経るのですが、香織さんの元にパーソナルスタイリストという耳慣れない職業の情報が集まりだしたようです。

注目すべきは、特別なことではなかったってこと。香織さんにとって、おしゃれをすることは子供の頃から当たり前すぎて、改めて「ファッションが好きです、趣味はおしゃれをすることです」なんて取り上げるものとは思ったこともなかったそうです。個性はごくごく日常の暮らしに宿ります。

あるがままの自分になろうとするけど、そもそも、あるがままの自分というのは、なろうとするものでも、探すものでもなく、“すでにそうであること”。そして、個性はそこに宿り、神様のBEの矢はタイミングがくれば放たれます。時は神のみぞ知る、です。

時は来た、動き出す

さて、それでも香織さんはこの時から2年間動こうとしませんでした。

「その時は、感覚でやっているおしゃれだったから。お客様に対して的確なものを提案していくというのは、全く違うスキルだといろんな情報を見ていく中で思ったんです。好きで着飾るのと違う話だって。ファッションについてとか基礎がいるだろうなぁと」

迷いますよね、仕事をするというのは誰にとっても大きな決断のひとつです。会社選びであろうが、個人でやっていく仕事であろうが同じ。

しかし、香織さんが腰をあげるときは当然やってきました。スタイリングを基礎から学べるスクールを選び動きだしたのです。そこには師匠との素敵な出会いもあったようです。

それで、みなさんも聞きたいですよね、迷いの中から立ち上がる瞬間ってどんな感じなのでしょう?満を持して、の瞬間です。

 

「なんでだろう、それは“ふと”ですね。“時が来る”みたいなのって、他の分野でもあるんですよね。「あ、やろう」みたいな瞬間が。

友達の買い物に付いてってたんです。そうしたら、友達に、香織はいつパーソナルスタイリストになるの?って訊かれて。いつのまにか、もうやるっていう前提になってるんです。

あれ?やるなんて言ってないけどな。なんでいつのまにかやることになってるんだろう?なんて思いました。周りの人には当然やるんだろうというふうに映ってたんでしょうね」

経験を積む大切さは重々知っていた

それからの香織さんは、先生について一からファッションスタイリングの基礎を学びました。今時はスクールをでるとブログを書いてすぐに仕事を始めるという個人のスタイリストも多くいるようですが、香織さんはまずはモニターを募り、30人のスタイリングを敢行。先生にそろそろきちんと料金をとってやってもいいのでは?と言われてから、さらに30人ほどやったところでようやく「できる」という確信を得たそうです。経験は何よりの力になる、元研究者だった香織さんはきっと根気よく積み上げる強さを肌でわかっていたのでしょうね。

言語学は一生の仕事だくらいに思ってたんですけどね。だから、このキャリアを捨てた時に思いました。ここから先はもう好きなことをやろう。好きなこと以外のことをやってもしょうがないなって

ああ、香織さん、好きなことって灯台下暗しだったりするのですね。

センス、ロジック、そして研究者時代に培った分析力を使っていく

言語学の研究と今のスタイリングの仕事、直接的なつながりや共通項はないものの、香織さんのスタイリングの強みとしてちゃんと継承されていることがありました。それは分析力。コーディネイトがうまくいかないと、なぜ、どこに原因があるのか、などとことん突き詰めて考え抜くという香織さん。スタイリングの師匠からはアナライザーと呼ばれています。

「研究者の気質は根底にあると思います。スタイリングにはセンス(感覚)の部分と論理的なルールの両方を使っていきますが、どちらかといえば、センスが先にきて、なぜそう思うのかな?と考えていくときにロジックを使うという感じですね」

人間は持って生まれた資質と生きてきた過程で培われた経験値によって、生かされているんだなと感じます。香織さんの話を聞きながら、新しいことを始めるのに、その分野での経験がないとビビる必要もないんです。人生に無駄はひとつもありません。

楽しさが苦しさを超えてゆく

香織さんにはコーディネイトのことを考え始めると延々と頭から離れない時があります。

「お客様のコーディネイトが100点満点でできた!って言う時、お客様はそれらの服を即買いなさいます。でも92点くらいかなぁなんて時はそうならない。お客様の感覚は鋭い。100点をどれだけ出せるかはやはり努力にかかっています。

もちろん、その努力は楽しくもあり苦しくもあること。言語学研究者だった時も同じような苦しさと楽しさがありました。今と何が違うかというと・・・

スタイリストのお仕事では、努力の苦しさを楽しさが超えていく瞬間が必ずくるんです。」

さて、ファッションについて私にはある疑問があります。

テレビやweb、本屋に並ぶ書籍をみても、今はカラー診断骨格診断顔タイプ診断といったタイプ分けによるコーディネイトが少し前からブームのようになっています。診断による結果があるにせよ、ファッションってその日の気分や自分が好きだと思う色って大切なのではないのか?とも思うわけです。そのあたりの心のせめぎ合いはどう処理をすればいいのでしょうね。

ねえ、香織さん、ファッションにおける自由の居場所はどこにあるんでしょうか?

「そこって大問題なんです!」

大問題!やはり?!どうすればいいの?

「好きなものと、セオリーに合うもの、似合うものって常に対立する状態なんですよ。じゃあファッションの理論とかは何も関係なく、好きなものだけを組み合わせていたら素敵になるかって言うと絶対に素敵にならない。要はバランス。矛盾する要素をどう両立させるのかを考えるのも、素敵になるためにとても大切なこと

自由のなかで美しさを見極め続ける

先の質問に対する答えとして香織さんが語ったのは自由の中で洗練を求めるということでした。

「理由のないひらめき・個性・クリエイティブな自分・・・世界において想像も自由、好きなものも自由です。これに対して洗練とは自由に発生する多様なものの中から、無駄なものや夾雑物を取り除き、整える、いたって理性的な作業です。そんな風に物事はいつも対立する概念、要素でできていて、100%では両方共には成り立たない。相反するものが両立するのが宇宙だから。」

美しさには黄金比があると香織さんは言います。どんな人が見てもそれを美しいと感じる、ある割合。人の感覚の中に普遍的にあるもの。それらは意識的に全部を原則化されてはいない。どこまでそこに近づけるかが美しさの探求であり、楽しさなのでしょう。

誰もが頷く美しさのバランスを感覚的にキャッチできるという能力は、例えば絶対音感のようなものなのかなと私は思いました。

取材当時、渡米してニューヨークのファッション観察をしてきたばかりだった香織さんです。ニューヨークは成熟した大人がファッションを楽しむ街。他のどの土地にもない重厚感と洗練された格好良さで彩られた街だと感じたそうです。

「軽く絶望しました。洋服って結局西洋人に似合うようにしかできてないのかもしれないって。洋服が本人の魅力と一体化した人がたくさんいるから」

なるほど、ここで軽く絶望する香織さんの変態性に嬉しくなってしまった私です。どこまで追求しつづけるのか、研究者魂とセンスが融合されたこれからの香織さんが楽しみでしょうがありません。

「本当の魅力をグローバルに追求するなら、私、最後は着物かな!?」

今も赤色ひとつに美しさを見極め続ける香織さんです。

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GUEST
髙尾香織(KAORI TAKAO)STYLE PARADIGM 代表 / パーソナルスタイリスト・スーツスタイリスト・パーソナルファッション講師